無人駅の海色の小瓶に入った手紙
さああ・・・・
さわやかな風が吹き抜けていく。
ふと、想いついて、仕事を休んで、いつもと反対側の方に出かける。
どこに行くあてもなく、ただただ、心が赴くままに、いつもと違う、ここではないどこかへ。
いきついたのが、この海街駅だった。
誰もいない、無人駅の、風と海の音がここちよい。何をするでもなく、降りるでもなく、ただ、その駅の手すりから、海をぼーっと眺めていた。
そんなとき、その無人駅のかたすみに、きらりと光る小瓶のようなものが落ちているのを見つけた。
海色の透き通った小瓶。拾ってみると、中には、羊皮紙のような手紙が入っているのが見える。
もしかして、宝島の地図だったりして・・・・
なんだか少し、どきどきしながら、きゅぽんとその小瓶の蓋をあける。
滑り出てきた羊皮紙風の紙には、こんなことが描かれていた。
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この現実こそが、現実だと思っていませんか。
汚いものにあふれ、
何かを破壊し消費していきながら
ただただ同じことを繰り返す日常
美しいものは、物語の世界にしかなかった。
小説やゲームの世界にしかなかった。
だから、その美しい世界に
抜け出せなくなりそうなくらいのめり込んで
だけど、朝が来れば、
その世界から嫌でも現実に戻される
その朝が嫌いだった。
どこかに異世界への扉があれば
自分も異世界に召喚されたらいいのに
さもなければもう明日が来る前に
世界を終わらせるボタンがあればいいのに。
そう思っていました。
だけど、ある場所と出会い、
気づいてしまいました。
その現実だと思っていた世界が、
実は仮の姿であり、
異世界に行くのと同じように
誰しも生まれながらに、
世界線を移動できるのだということに。
それは、昨日と全く同じ道、
月がふたつあるわけでもない、
ひとつのままの世界
だけど、魔法の使える世界。
当たり前のようにアンドロメダに行き
月で歌を演奏する人がいて
人には見えないものが見え
呪文を唱え想像したものをかたちにすることができ
時は未来から流れる。
同じように生活している人が同じ地球上にいても
人によって、居る世界線が違う。
それがこの世界の真実。
ずっと夢に見てた物語の魔法の世界
そんなものあるわけないって思って
でも本当はあったらいいのにって
ずっと思ってて
でも探しても探してもなかった。
ないと思って大人になっていったから、
とても、苦しかったですよね。
そんなこと、いつまで思ってるんだと自分に言い聞かせてきたから、
つらかったですよね。
だけど、もう大丈夫。
その世界はあると私が証明する。
異世界への行き方を、
世界線の渡り方を、
魔法の使えるようになる言霊を
それは、誰しも持っているけれど、
いままでそれを開花させていける場所がなかったから
だから伝えたい。
この手紙を拾ったあなたに、
私が異世界に渡ることのできたこの場所を。
あなたへ魔法寺子舎の招待状を魂を込めて。
千聖より
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最後に、その場所への行き方の地図が描いてある。
魔法寺子舎?
魔法の使える世界?
そんなバカな。なんて怪しい手紙なんだろう。
そんなもの、あるわけない。
そんなこと、信じていた時期はもう、とっくに終わった。
ハリーポッターはどこにもいなくて、ホグワーツからの手紙をもらうこともなくて
いつからか、サンタさんが、いないって気づいたあの日からもう、そんな世界ないってわかってる。
でも。
もし・・・
もしも、本当に、そんな場所があったのだとしたら・・・?
私も、魔法使いになれるのだとしたら・・・?
どくんと、音がする。
その紙が、風に飛ばされないようにしっかり握りしめる自分がいる。
すでに、いつもと違う、日常がはじまっていた。
あなたは、この場所を、訪れてみますか?